新刊『朝日のあたる川 赤貧にっぽん釣りの旅二万三千キロ』発行直前! 編集裏日記(2)

もしかしたら天才?

著者から単行本「あとがき」の原稿を受け取ったとき、私は背筋がぞくぞくっとする感触を受けました。こんなことはあまりありません。それは第一級の詩だったのです。

真柄さん、もしかしたら天才なんじゃなかろうか、というのがその時の私の正直な感想でした。ところが本人はけろっとしたもので、私が少しふるえながら「あなたは天才かもしれない。」と言ったところ、電話の向こうで真柄氏は「まじっすか(笑)」と山形県人らしく鷹揚に微笑んでいるばかりでした。やっぱりこいつ天才だと唸りました。

川の匂いがむんむんするフライ

前稿で『フライの雑誌』に書いていただく釣り人は、人柄優先だと書きました。誤解のないように言い添えておくと、真柄氏の釣りの腕はかなりのものです。実際に釣り場で目撃している私が証言します。また、フライショップ「ループ・トゥ・ループ」の横田氏とその仲間たちの薫陶を受けている真柄氏のキャスティングは見事です。

著者28歳のとき。旅の途中の京都にて。

タイイングも相当のレベルです。見せかけのこけ脅しや甘ったるい自己満足系ではありません。川の匂いがむんむんするフライを巻きます。そして、キレイキレイ系も巻こうと思えば巻ける実力の裏打ちもあります。何度も言いますが、旅の間に使ったフライは、『朝日のあたる川 赤貧にっぽん釣りの旅二万三千キロ』の中にどすんと掲載したのでお楽しみに。

本当の〝釣り上手〟とは

「釣りのうまい人は立ち位置で分るという。」と真柄氏は本作中で記しています。まさにそれを地でいっているのが真柄氏の釣り姿だと言えます。これについても私が「真柄さんは釣りがうまいよね。」と言ったところ、真柄氏は「まじっすか(笑)」と山形県人らしく鷹揚に微笑んでいるばかりでした。

釣りそのものだけでなく、釣りをとりまく物やら人やら旅やら、すべてのものごとを素直に受け入れて楽しめる、彼のような釣り人をこそ〝釣り上手〟と呼ぶべきでしょう。それができるかできないかが、まさに人柄なのだろうと思います。

いましろたかし氏のカバーイラストについて

新刊『朝日のあたる川 赤貧にっぽん釣りの旅二万三千キロ』は、手にとりやすい新書判でお届けします。

カバーには、狩撫麻礼氏から〝平成のつげ義春〟と呼ばれたという人気漫画家のいましろたかし氏に、何とも味わい深いキャラクターイラストを描きおろしていただきました。見る人が見れば一目で「あ、いましろさんの絵だ」と分ります。分る人には「◯◯に出てくる△△だ」とそこまで指摘できるはずです。いましろ氏から原画を受け取ったとき、私は感動にうちふるえました。どうもふるえてばかりですいません。

いずれにせよ、いましろたかし氏の作品を読まずして漫画読みは名乗れません。数あるいましろ作品のなかでも『初期のいましろたかし』と『トコトコ節』、『デメキング』、『気に病む』を推せんしておきます。

いましろたかし氏の作品の魅力と、小誌とお知り合いいただけた経緯、いましろ氏と真柄氏と私の三人が初めて接近遭遇したブルージーな中野の夜のことなど、あれこれとまだ語りたいことがあります。それはまた次の機会に。

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